慈眼寺縁起

慈眼寺には「荘厳(しょうごん)」と言われる、御本尊様をきらびやかに飾る仏具がございます。

柱には「柱掛け」や「揚幕房(あげまくふさ)」がありますが、慈眼寺の柱掛けには笛を吹く天女が織られています。

そして正面の「水引き」に織られた天女は笙を吹き、鼓をたたいています。

 

これらは観音様がお出ましになった時のお話を表しています。

紫雲たなびく空が広がり、どこからともなく、妙なる笛や笙、鼓の音が聞こえてきました。

見上げると天から天女様が降りてきて、音楽を奏でています。

それを見た近隣の人たちは「ああ、これは何かとてつもなく大きなありがたいことが起こったに違いない」と思ったわけです。

 

次の日、音が鳴った場所に向かうと、観音様がいらっしゃいました。

そこに旅の僧が現れて「これは尊い観音様ですから、地域の人で守ってください」と言って立ち去ったそうです。

そこで地域の方々が力を合わせて、観音様を守るためにお寺を作ったわけです。

 

これが秩父札所13番慈眼寺の開創のお話です。

例えば、京都や奈良、鎌倉などには「天皇家が菩提を弔うために建てた、殿様が奥さんや父親を弔うために建てた」というものが多いのです。

ところが、秩父では「誰かが地面を掘っていたら突然観音様が現れた。それを地域の人で守ってお堂を建てた」というお話が多いのです。

 

ですから、秩父は大きなお寺はほとんどありません。

慈眼寺も本格的な曹洞宗の法要をするにはなかなか厳しい広さです。

しかし、秩父のお寺は宗派というのものにあまりこだわりがないのも特徴です。

 

今、慈眼寺では境内の整備を進めたりしていますけれども、お檀家さんが中心になって物事を進めているところがあります。

ここにも「観音様をみんなで守っていこう」という精神が底辺に流れているのです。

 

観音様は、本当に親しみのある仏様です。

大きくはないけれども、地域の方が一生懸命守っている札所がたくさんある、そういったところこそがこの秩父の良さだなと思っています。

 

秩父には重要文化財などありませんし、日本遺産にも指定されていません。

しかし、ここは確かに私たちの心の遺産になっているのです。

ですから、ぜひ足を運んでいただいて観音様とのご縁をお結びください。

 

「こういう始まりがあるから、素朴で敷居が低い、誰もがお参りができるお寺なんだな」ということを感じていただけるとありがたいなと思っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です