2022年のアカデミー賞
『ドライブ・マイ・カー』が日本の映画として初めてアカデミー賞の作品賞にノミネートされたということもあって、今回は映画の話をいたします。
秩父には映画館がありません。
私は映画好きなのに、映画館がないのです。
ですから、「映画を観たいな」と思った時には、オンラインでどうにか済ませています。
私は今年もアカデミー賞を楽しみにしています。
今年の私の注目の映画は、何といっても『ウエスト・サイド・ストーリー』です。
『ウエスト・サイド・ストーリー』と言えば、映画界の中ではある意味ほぼ完成された評価があります。
もともとはミュージカルで、1961年にナタリー・ウッドとリチャード・ベイマーの主演で映画化されたものですが、音楽も監督も素晴らしくて、『サウンド・オブ・ミュージック』と並ぶミュージカル映画の最高峰となっています。
それを、あのスティーヴン・スピルバーグがこの時代にリメイクすると聞いて、
私は「なんでだろう?」と思ったわけです。
あの映画はアメリカ、特にニューヨークでのプエルトリコ系とポーランド系の移民同士の抗争が描かれています。
移民たちが生活していた地域が再開発によって移動せざるを得ないという中で、対立するグループの2人が出会って恋に落ちるというストーリーです。
アメリカは移民の国ですから、それぞれの国の人たちが抱いてきたさまざまな苦悩がその中に凝縮されています。
オリジナル版ではプエルトリコ系の役者たちが活躍できる場がなく、白人の役者たちが少し肌を赤く化粧をして、プエルトリコ系の人たちを演じていました。
それを、今ならプエルトリコ系の役者が出演できるということで、スピルバーグがリメイクしたのでしょう。
スピルバーグはユダヤ人で、『シンドラーのリスト』という映画も撮っていますけれども、やはりそれぞれの国の人たちが大切にしているものを深く描きたかったではないかと思います。
リメイクというのはうまくいかないことが多いのですが、私は今回の『ウエスト・サイド・ストーリー』を観て酔いしれたいなと考えています。
そして、合わせて観たいのが『ドライブ・マイ・カー』です。
私は、これは目の付けどころがすごいと思いました。
もちろん監督の手腕も西島さんの演技力もあるでしょうが、なぜワールドワイドに受け入れられたのかというと、やはり村上春樹の原作ということでしょう。
何度もノーベル文学賞にノミネートされてなかなか取れないけれども、世界中にファンがたくさんいます。
私も高校から大学のころ、『ノルウェイの森』などを読ませていただきました。
監督賞は『乱』でノミネートされた、あの黒澤明さん以来です。
そして脚色賞にノミネートされたことがすごいなと思いますし、これは日本の映画にとって特筆すべきことではないでしょうか。
それから作品賞ですが、これはもしかしたら取れるのではないかと思っています。
もちろん昔の外国語映画賞、今は国際長編映画賞と名前が変わりましたけれども、それにもノミネートされています。
これはきっと取れるでしょうが、そうすると『おくりびと』以来です。
今、アカデミー賞に投票する権利を持っている人がどんどん世界中に広がっているみたいで、監督賞を2年続けてアジア系の映画が取りました。
去年の『ノマドランド』はアメリカの映画ですけれども、監督はクロエ・ジャオという中国系の人です。
その前の年は韓国のポン・ジュノ監督が取りましたが、この監督は『パラサイト』だけではありません。
本当にすごいので、ぜひ『母なる証明』を観ていただきたいなと思います。
その内容はとても言葉では語れませんが、真実は言葉では語れないのです。
言葉で語れるようなものは真実ではありません。
「芸術は爆発だ!」これが真実なのです。
そのようなものをロジックで説明できません。
私たちが毎日生活していて「何だか分からない」と感じても、それでいいのです。
言葉でうまく説明できない、それを形あるものとして表現しているのが芸術です。
われわれの心の中にある「何だか分からない」ものを吐き出している、これが音楽であり、美術であり、ポエムであり、俳句であり、映画であるわけです。