南泉一文字
お坊さんには「号」というものがあります。
私の本名は「幸保(ゆきやす)」、お坊さん読みでは「こうほう」ですけれども、その上に「南泉」という号が付いています。
この「南泉」という文字で思い出した方もいらっしゃるかもしれませんが、実は「南泉一文字(なんせんいちもんじ)」というという名刀があるのです。
『刀剣乱舞』という、刀をキャラクターデザイン化したアニメやゲームがあるのだそうですが、何とそこにも「南泉一文字」が出てきます。
そして、その「南泉一文字」はセリフの語尾に「〜にゃー」と付けるのですが、それはどうしてかご存知でしょうか?
750年〜800年のころ、中国に南泉普願(なんせんふがん)という高名な禅宗のお坊様がいらっしゃって、たくさんのお坊さんが修行のために集まっていました。
普通の修行道場では、お寺の西側に坐禅をする道場があって、東側にはそれを管理したり料理作ったりするような場所があります。
ところが、南泉普願が率いていた道場には、西にも東にも修行する道場があったと言われているので、相当たくさんの人が集まっていたようです。
ある日、東西の修行僧が猫のことで言い争いになりました。
それを見た南泉和尚が、その猫を取り上げて「さて、今のこのありさまを一言で言ってみろ。おまえたちがもし何も言わなかったら、この猫を切るぞ」と言ったのです。
しかし、お坊さんたちは何も言えなかったので切ってしまいました。
ちなみに、この場面を描いた『南泉斬猫図』という有名な絵もあります。
その後、南泉和尚の一番弟子であった趙州従諗(じょうしゅうじゅうしん)という方がやってきて、「今日は何か一大事があったそうですね」と尋ねました。
そこで「おまえならどうする」と聞かれた趙州従諗は、置いてあったわらじを頭の上に乗せてすたすたと帰っていきました。
それを見た南泉和尚は「おまえがいたら、あの猫は切らずに済んだのにな」と言ったそうです。
昨日もその話を夫婦でいたしましたが、「おまえならどうする?」と聞かれた妻が何と言ったと思いますか?
一言「にゃー」です(笑)。
実はこれでいいのです。
つまり「猫なんかにこだわらずに、おまえらは修行しろ」ということなのです。
「全部手放して、ただひたすら修行に励みなさい。自分なんていう領分を手放してしまいなさい。小さなこだわりは捨ててしまいなさい」ということを言いたかったのではないのかなと、私は思っています。
南泉普願和尚から言われのある私の号ですから、これからは猫を大事にしていきたいなと思った次第です。
そして「南泉一文字」にあやかってというわけではありませんが、これから今日の一文字という新コーナーを始めていこうと考えています。
こちらもご期待ください!